大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和41年(行ツ)10号 判決

長崎市鍛冶屋町甲四三番地

上告人

石橋晴義

長崎市本大工町五二番地

被上告人

長崎税務署長

氷室秀春

右当事者間の福岡高等裁判所昭和四〇年(行コ)第八号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四〇年一一月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は、別紙記載のとおりである。

原判決(その引用にかかる第一審判決)の確定した事実関係の下においては、原審の所論判断は相当であつて、上告人主張の違法はなく、論旨は、原判示に副わない事実に基づくか、これと相容れない独自の見解に立脚して、その違法をいうに過ぎないものであり、採用の限りでない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

○昭和四一年(行ツ)第一〇号

上告人 石橋晴義

被上告人 長崎税務署長

上告人の上告理由

第一点 原判決は第一審判決と同一の理由により上告人の請求を棄却したのであるが次の通り違法がある。

上告人は被上告人長崎税務署係員のすすめにより数年来青色申告をしてきたものである。

ところが従来営業の不振事業の欠損相つぎ昭和三五年度の欠損額は五百三十三万五千三百三十円に及んでいる。

右の如く従来の欠損額あるときはこれを補填するまでの間は所得税納付の義務がないことは見安き道理である。所得税法に於てもその第九条の四1に於て損失金の繰越控除が明らかに認められているのである。この控除は青色申告書を提出しない場合に於てすら認められることは同条第三項に規定するところである。

然りとすれは本件で問題となつている家賃金三十六万円(内未収金三十三万は抛棄されたものであること後述の通りである。)を申告しなかつたとして当然控除さるべき金額であるからこれを過少申告または脱税などとするいわれはないものである。

これを看過した原判決は法律の解釈を誤つた違法があるかさなくば釈明権の行使を怠つた違法があるものとして破棄さるべきものと思料する。

第二点 本件で問題となつている溝田ミネに対する未収家賃金の権利の帰属については問題はあるが、この権利が原審のいう如く上告人に属するとしても上告人は未収家賃金を受領した事実はなく、却つて真実の権利者たる石橋正敏外二名の者より昭和三九年一月三十日に債権の抛棄をなしたものであることは甲第一、二号により明らかである、即ち上告人はこの未収金債権を行使し得ない状態にある。

原審判決はこの債権抛棄の事実について仮りにそのような事実があつたとしてもと仮定の上に立つて所得税法第二七条の二の規定による一ケ月内に申告した証拠がないとして上告人の請求をしりぞけている。しかしこのようなことは普通一般人が知る由もない規定であつて行政指導によつてのみ活かさるべきものである。これを指導もなしに取上げないとするならば税務署は人民の法律の不知に乗して不当に利得するものに外ならないというべきである。

納税者が喜んで、少くとも納得して納税するように指導することが被上告人乃至その係員の公僕としての任務ではないだらうか。

上告人は裁判所に対して所得のないところに納税の義務はないことを愬えて来たものである。所得のないものに課税をすることはできないことは所得税法の大前提とする自然法ともいうべき真の法にあるものと信する。

これに反して所得のない上告人に課税を是認した原判決は破棄さるべきものと思料する。 以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例